
NPO法人トリトン・アーツ・ネットワーク(TAN)のアウトリーチ活動

1月21日午後、寒風吹きすさぶ外界とは対照的に、東京都中央区立佃島小学校併設のクラブルームからは、暖かなビオラの調べが鳴り響いていた。手を伸ばせば楽器に触れられそうな距離で奏でられるクァルテット・エクセルシオによる弦楽四重奏に、4年生95名はみんな興味津々だ。パッヘルベルの『カノン』やモーツァルトの『アイネ クライネ ナハトムジーク』といった聴き覚えのある旋律に子どもたちの目が輝く。「バイオリンの弓は何からできているでしょう?」バイオリニストの問いかけに、「馬のシッポの毛!」男の子が元気に答える。『ふるさと』、『紅葉』など日本の童謡や『八木節』といった民謡まで織り交ぜ、工夫された楽しい一時間のプログラムは、あっという間に過ぎてゆく。最後には、子どもたち全員が立ち上がり、クァルテットの演奏に合わせ、佃島小学校校歌の大合唱となった。その直後、子どもたち、演奏家の双方から大きな拍手が湧き起こった。ほほえましい光景にアウトリーチ・コーディネーター研修中の朝山勝治さんもつい顔がほころぶ。
TANによる小学校へのアウトリーチコンサートの一幕である。
「アウトリーチ」とは、芸術文化に触れる機会の少ない人々のところへ芸術家が出向いて芸術活動を行うことをいう。TANでは第一生命ホールを拠点に中央区やその近隣の学校や病院、特別養護老人ホームなどに受入先の負担なくアーティストを派遣し、音楽を届けるアウトリーチ活動を年間40回ほど実施している。
このアウトリーチ活動において重要な役割を担うのがアウトリーチ・コーディネーターである。アウトリーチ・コーディネーターとは、受入先である学校や病院とアーティストとの橋渡し役のことだ。コーディネーターは数ヶ月前から幾度となく学校とアーティストの双方と綿密な打合せを行い、演奏曲目などを調整する。このようにコーディネーターには、音楽についての豊富な知識だけでなく、高度な調整能力が求められる。
TAN専従職員に付き、今回のアウトリーチ・コーディネートを手伝ったのがTANサポーターの朝山さんだ。これまでTANでは、専門知識と経験を持った専従職員がコーディネーターを務めてきた。近年、アウトリーチを希望する声が増えてきたこと、こういった活動を中央区だけでなく全国にも広げていって欲しいという思いから、TANでは今年度からコーディネーターの育成を始めた。以前からコンサートやアウトリーチのボランティアスタッフとして活動している TANサポーターにコーディネーターとしての知識や技術を習得してもらい、アウトリーチの場で活躍してもらおうという取り組みだ。

これが今年度「文化庁文化ボランティア推進モデル事業」に委嘱された「アウトリーチ・コーディネーター養成講座」である。養成講座では、現在第一線で活躍する公立文化ホール職員、プロのピアニスト、大学准教授などを講師に招き、現場の話を聞くとともに一つの小学校をモデルケースにアウトリーチの実践を行っている。先述の朝山さんも養成講座の受講生の一人だ。この養成講座では、TANのサポーターだけでなく、アウトリーチ活動に興味のある人は誰でも受け入れている。TANでは約80名がサポーターとして登録しており、そのうち朝山さんを含め10数名が養成講座を受け、コーディネーターについて学んでいる。コーディネーターとして一人前になるには3年程度の実地経験が必要という。
「音楽が地域社会に根付くように」と日々奮闘している人々が、音楽の素晴らしさを次代の担い手に繋いでゆくのである。

