
(財)アサヒビール芸術文化財団
事務局長 加藤 種男さん
間接支援に変化してきたアートの支援
今、文化を支援している財団で、一番多い助成はイベントに対するものです。展覧会やコンサート、演劇の公演など、いわば最後のアウトプット、消費の部分ともいえます。 しかし、私はその消費やアウトプットの部分は、マーケットとか、オーディエンス(観客)に任せておいてもいい部分があると思います。よく展覧会などをして赤字というけれど、私はそこだけでの赤字は案外少ないのではないか、一番支援しなければいけないのは、それを発表するまでの間、作品になるまでの間だと考えます。
芸術は新しいもの、新しい事柄の創造ですから、美術に限らず、音楽にしろ、演劇にしろ、作っていくプロセスは手間暇がかかります。企業活動でいえば、研究開発の部門です。当たるか当たらないかわからないが100個作ってやっと1個が当たるという世界ですだが、そこに莫大なお金を投資していかなければ、いいものも出てこないのです。
手間暇がかかり、苦労がある。我々としてはそういうところを支援できる体制、仕組み作りをしたいと思いました。
そこで、アサヒビール芸術文化財団では、来年度から、つまりは2008年10月からの公募ですが、「芸術文化NPO、芸術文化機関、及び芸術文化施設助成部門」を設けて、プロセスに支援する間接助成も公募していくようにしました。これまではアウトプットの部分だけ公募して、プロセスの部分は非公募で審査し助成していたのです。
舞台芸術の分野でどの人を支援するかをNPO法人アートネットワークジャパンや京都のNPO法人ジャパンコンテンポラリーネットワーク、アーティストと学校をつなぐ活動をしているNPO法人芸術家と子どもたちなど全国の15~20の機関を選んで助成します。こうした組織は専門家集団ですから、彼らの目で幅広く芸術家を選んでいるので、ワンクッション置いて最終的な部分にまで支援ができるわけです。我々だけで選ぶとどうしても限界がありますが、こうした間接支援の導入でいい支援ができるのではないかと思っています。
全部ではないですが、こういった間接助成の形をなるべくとっていきたいと考えています。私は、文化庁にも「間接支援をしたらどうか」と何度も言ってきています。現場を知らない方が多いので、現場で何が困っているのかわからない。日本のコミュニティーなり地域に根差して活動したいという人たちの声は、なかなか文化庁まで届かない。結局、有名な芸術家の声だけが届いて、その方たちを支援することになってしまうようです。
仕組み作りをしている機関を支援すれば、おのずと新しく生まれてくる若手の芸術家の発掘支援ができるようになります。
日本から世界的に活躍できる人を 日本で生み出して世界に送り出したい
日本でも芸術文化振興のための芸術文化振興基金が作られましたが、最大のネックはプログラムオフィサーがいないことです。ほんとうに創造する人たちのプラスになるモデルが提示できない。あるいは具体的に選考するプロセスになったときに、事前の調査ができていないのです。この団体やアーティストなら大丈夫という見極めをする。それをするのは選考委員ではなくて、プログラムオフィサーです。現場を歩いて見ている、こういうふうに育てようと発掘してくる係です。
また、プログラムオフィサーになる人は助成対象との間で利害関係のない人でなければいけません。私は芸術家を選考委員とすることに反対しているのですが、それは彼らに利害関係があるからです。むしろ芸術家を評価し敬意を払うからこそ、芸術家には本来の表現活動に専念してほしいのです。助成対象との間に師弟関係や競合関係があることは、選考委員として望ましくないと考えるのです。
芸術家の目的は、自分の表現を社会に問うということです。それは社会から直接、自分評価されるということになります。プログラムオフィサー、あるいはプロデューサー、マネージャーでもいいですが、我々は自分が評価されることが目的ではないのです。われわれは表現していないから、誰も評価してくれない。我々が評価されるとすれば、世の中にどれだけ自己表現する人を送り出したか、評価されるアーティストを選んだか応援したかです。人を有名にしなければならないのです。日本から世界的に活躍できる人を日本で生み出して世界に送り出したい。それが我々の大きな目標です。
地域やアートをネットワークする「アサヒ・アート・フェスティバル」
我々がもう一つやっているのが、2002年にスタートした「アサヒ・アート・フェスティバル」という、ちょっと変わったお祭りです。美術・音楽・ダンス・映像など、ジャンルを越えて、アートをもっと身近なものにしようと全国のいろんなところで活動しているアートNPOをネットワークしています。グループや個人にわずかばかりの助成をし、財団の媒体などを使って広報の支援をするのです。それぞれ地元で知ってもらいたい、地域に対する理解を促進したいと活動して、3年目くらいになると地元の理解が大きく変わります。地元の人たちも、さすがに見るに見かねて何とかしたくなる。「なにやっているのか」「もっと早く言ってくれればいいのに」「早くから言っているのに…」となってきます。継続が大きな力となりますね。
ネットワークすることで力が何倍にもなる。それとそれぞれが持っている悩みや課題というのは意外と共通している。「一緒?どうやって解決したの?」「それならうちもやってみよう。こういうやり方もあるんじゃない」と。互いに智恵を出し合う。文殊の知恵ではないが、3つの団体でネットワークを組めば相当な力になる。それを30集めれば、そのうち2つや3つはパートナーを発掘できるでしょう。複数のネットワークを集める場だけを、我々は用意しています。最後の報告会では、みなさん仲良くなってお互いに生き生きしていますよ。それぞれ自立していますから。我々は、感想を言ったり、口出しをしたり、検証チームが検証したりはしますが、運営面ではマネージメントをできるだけしないようにしています。だから総合ディレクターもいません。
今度の報告会は11月29・30日にワークショップ型で行われました。とにかく課題を自分たちで出し合って、それをどうやって解決するか。一つ一つ議論して解決方法を共有していくことになりました。
市民のアートリテラシー向上へ
フェスティバルをやった効果は、地元に幾つかあるグループ、福祉とか街おこしとか、またアートでも美術、音楽、舞台演劇など同士のいいネットワークができたことです。それは思わぬ効果でした。そばにいながら意外に知らなかった。名前ぐらいは知っていたかもしれないが、会ったことがなかったが出会って、何かをしていこうとなったことです。
我々は、「未来・市民・地域」を掲げて、専門家の機関を間接助成することで未来文化を創造する、アート・フェスティバルで地域を面白くする、市民のアートリテラシーをどう向上させるかについて取り組んでいます。
アート・フェスティバルでは、作り手側、運営する側がフェスティバルに参加することでリテラシーも向上しています。私は市民のアートリテラシーは潜在的には非常に高いものがあると思っています。それを引き出すのもこうした活動の大きな目的です。
「アートの中に閉じこもることはない」自立し、継続していくこと
地域でいろんなアート活動をしている方に一つアドバイスするとしたら、「アートの中に閉じこもることはない」ということです。地域を住みよくすることが一番の目的のはずですから、どうしたら地域がよくなるかを考えることです。芸術は何をテーマにしてもいいはずなので、何に遠慮もなく、地域に眠っている資源を発掘して活用していく。それが一番重要なことですね。使えなくなった負の遺産こそ面白いので、いろいろな方法で活用の余地があるものです。 (談)
<プロフィール>

加藤 種男(かとう たねお)
1948年兵庫県生まれ。90年にアサヒビール(株)企業文化部課長就任以来、企業によるメセナ活動を幅広くリード。2002年より現職。アサヒビールのプロジェクトとして、アサヒ・アート・フェスティバル、ロビーコンサート、文化・音楽講座等多彩なメセナ活動を展開。アートと市民社会をつなぐ企画のプロデュースを多数手掛ける仕掛け人としての顔も持つ。04年より(財)横浜市芸術文化振興財団専務理事として横浜市の文化政策推進の旗振り役も務める。企業メセナ協議会研究部会部会長、文化経済学会理事、日本NPOセンター評議員、埼玉県芸術文化財団理事、大仏次郎記念館館長。共著に『社会とアートのえんむすび—つなぎ手たちの実践』。
